松永副院長のカンボジア便り 38 「カンボジア伝統医療」
本日の診療から
36歳女性、乳癌手術を取りやめ、カンボジアの伝統療法を行うこととなった。
彼女は先月初診、乳癌の診断にて手術予定となっていた。
手術待機中に乳癌が破裂し、本日急遽来院された。
診察したところ、破裂してはいるが、今の段階なら定型手術が可能であった
手術室や病棟のスタッフに頼み込んで、何とか明日の手術に組み込んでもらった。
本日入院することとなり、ある程度準備が進んだ段階で、突如、彼女の口から手術をキャンセルしたいとの申し出があった。家族会議で長老から「手術はダメだ。カンボジアの伝統療法をやれ。」とのお達しがあったそうだ。
我々は、カンボジアスタッフも交えながら何度も繰り返し説得した。
しかし彼女の決心は動かなかった。
手術は中止され、家族と一緒に帰って行った。
手術が決まっていた患者さんが、中止して伝統療法を行うケースは私にとって初めての経験であった。
伝統療法自体はこれまで何度か目にしたことがあった。乳癌に対して患部につばをかけ、薬草と泥を塗る治療がメジャーのようだ。それで治らなくて当院に逃げ込んできたケースが何度かあった。
今回の患者さんも、最終的に伝統医療を選んだくらいなら、なぜわざわざ当院に来たのかを考えると、いろいろ悩んでいるのであろう。しかし、今後さらに腫瘍が大きくなった段階で来てもらっても、もう切除することは出来ない。
日本なら抗がん剤であるが、保険診療が期待できないカンボジアでは、その莫大な治療費を払える者はわずか一握りである。
思い返せば、日本でも、根治手術が可能でも代替医療を選ぶ方がたまにいる。
西洋医学が万能とは考えていないし、代替医療が奏功する場合もあると思う。
しかし、代替医療の中には西洋医学を否定することでその優位性を主張しているものもあり、根治出来るチャンスを逃してしまう可能性がある。もっと研究がすすめば、西洋医学がふさわしいケース、代替治療が望ましいケース等、AIが振り分けてくれる日がくるかも知れない。