カンボジアに帰ってきた初日、外来で診察していたRathnaに呼ばれた。外来のベッドには痩せこけた30代の女性が寝ていた。生気がなく、硬い腹部全体に圧痛を認めた。人相は変わってしまっていたが、１年前に私が大腸癌で手術した患者であった。腹膜に癌が再発し、既に末期状態で手の施しようがなかった。そばに付きそう夫の顔を見たら、献身的に妻の看病をしていた入院中の様子が、昨日のことのように思い出された。「私が働いて妻に抗癌剤治療を受けさせます」と一年前の彼は言った。しかし、結局、金がなくて抗癌剤は出来なかった。
今更かけてあげる言葉もなく、痩せた足をさすっていたら、彼女の顔が少し微笑んで、私は泣きそうになった。Rathnaが言った。「彼女は先生に会いたくて何回も病院に来てました。今日やっと会えたので、あとは家族と家に帰ります。」
手術は定型的に行った。だが再発した。
私の師匠である恵佑会札幌病院の細川先生の口グセ「結果が全て！あとは全部言い訳」
精進あるのみ。