松永副院長 カンボジア医療支援日記 15
皆様お疲れ様です。今日はあるカンボジア人スタッフのことを紹介します。
Sovannaはカンボジア人研修医。小柄で愛想がよく、北見日赤の脳外の部長先生の若い頃を彷彿させる風貌である。
彼は見事に仕事が出来ない。手術では滅菌手袋すら一人では満足にはけないし、知識、理解力においても他の誰より劣っている。彼は3月に我々の病院で働きはじめたが、日本人スタッフは皆、“困ったチャン”として彼を扱い、冷笑、無視の対象ともなっていた。
でもカンボジア人スタッフは、誰も彼をいじめたり冷たくしたりしなかった。カンボジア医者の中で最も輝く秀才Rathanaは、とくに彼と仲がよく、いつも2人で冗談を言い合ってはニコニコ笑っていた。
患者が混んできてSovannaも担当患者を持つこととなった。手技が未熟だから主治医でも手術は見学だけである。
でも主治医になった嬉しさと誇らしさが全身からあふれていた。ある虫垂炎の患者の担当したときの話。外来に来て痛さで唸っていたときからずっと彼は見ていた。手術をしたが既に虫垂は穿孔しており、排ガスが出るまで絶食の方針となった(注*)。
術後2日間排ガスが無かった。カンボジア人は絶食によわく、何か食べないと気分からやられていく。
術後3日目の朝、私が病棟に行くとSovannaが待ち構えていた。「おなら出ました!」期待に満ちたSovannaの表情が子供のようだった。
「お粥始めていいよ」と私は答えた。Sovannaは本当にマンガみたいに跳び上がってよろこんだ。そして一目散に患者のところに駆けていった。
他の患者の場合でも、状態が徐々によくなっていく過程の一つ一つが嬉しいらしく、Rathanaに何度も説明しては喜んでいる。
日本人スタッフ達もしだいにSovannaのことを理解してきた。
彼から学ぶことはたくさんある。
(注* 虫垂に孔があいていた場合 腹膜炎をおこし胃腸がうごかなくなっている可能性があり、おならがでることで腸の動きが確認できたこととしてごはんを開始することがあります。)